手書きの遺言
2013年3月14日 木曜日
一般的に遺言を遺す場合,公正証書にするか(公正証書遺言),手書きにするか(自筆証書遺言)のどちらかが
一般的なのですが,今日は,自筆証書遺言により,遺産の相続手続をする場合の不都合について書きます。
法律的に,公正証書遺言と自筆証書遺言とで効力的な違いはないのですが,
実務をやっていると自筆証書遺言による手続の場合には,次のような不都合が生じます。
たとえば,「遺言者は,全ての遺産を相続人Aに相続させる。」といった自筆証書遺言(法律的な要件を
満たしていて,遺言者の死亡後に家庭裁判所で検認手続を経たもの)があるとします。
遺産が株式や預貯金の場合には,各金融機関ごとの書式に従って手続を進めるのですが,
この書式には,自筆証書遺言があっても,全ての相続人の署名と実印を要求され,
さらに相続人全員の印鑑証明書(発行後3カ月以内のもの)を要求されます。
最近,某証券会社の書類には,「当社では,自筆証書遺言による手続はできません。」と明記してあって,びっくり!?
これは,民法に対する挑戦なのか…?
そもそも,遺産相続について相続人間でもめる可能性があるので,遺言を遺すことが多いのですが,
いざ,手続をする際に,相続人全員の署名・実印と印鑑証明書が必要となるのでは,結局相続人全員と遺産について
話をつけなければならない(遺言の内容について納得してもらわなければならない)ということなんですよね。
あと,戸籍などの必要書類も,被相続人について出生から死亡までの戸籍謄本と,相続人全員の戸籍謄本が要求されます。
さらに,戸籍謄本に3カ月以内とか,有効期間が金融機関によって定められていたり…。
ちなみに,相続による不動産の名義変更を自筆証書遺言により行う場合には,
①検認済みの遺言書,②被相続人が死亡していることを証する戸籍謄本,③相続人Aの戸籍謄本,④Aの住民票のみで,
手続を行うことができます。戸籍謄本等について有効期間の定めもありません。
(金融機関が要求する古い戸籍(原戸籍や除籍)は,すでに閉鎖されて書き換えられることがないのに,
これについて有効期間を定めるっておかしいんですよね…。)
金融機関の側の言い分としては,自筆証書遺言の場合には,①裁判によってその有効性が覆される可能性がある,
②遺言があっても,これを無視して相続人全員で遺産分割協議をすることもできるので,遺言があるからといって,
これにより直ちに手続を進めるのではなく,他の相続人の同意が欲しい。と,いったところでしょうか。
一方で,公正証書遺言の場合には,大抵の金融機関では,遺産を取得するAのみの署名,捺印で全ての手続を行うことが
できます。
結局,遺産が不動産のみの場合には,自筆証書遺言でも問題ないのですが,預貯金等がある場合には,
公正証書遺言にした方が無難なんですよね。
公正証書にするのには,お金がかかりますが,自筆証書遺言についての有効性を10年以上も裁判で争って
膨大な時間とお金を費やすということもありますので,こうなるとどちらが安いのかということですよね。