2011年11月30日
今日は,相続放棄についてお話をします。相続放棄とは,プラスの財産もマイナスの財産(借金などの債務)も一切取得したくないときに,亡くなった方(被相続人)の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行う手続です。そして,家庭裁判所に受理されることにより,申述をした人は,「初めから相続人でなかった」とみなされます。
相続放棄の申述は,相続が発生し自分が相続人であることを知った日から3ヶ月以内(通常は,被相続人が死亡した日から3ヶ月以内)に,しなければなりません。被相続人の死亡日から3ヶ月を経過すると認められないのかというと,必ずしもそういうことではなく,判例では「相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識したとき又はこれを認識しうべきときから3ヶ月」とされています。
例えば,被相続人が亡くなってから10年以上を経過してから相続放棄の申述をして受理されたケースがあります。これは,ある日突然,某市役所から依頼者の下へ,「(依頼者の全く知らない人が10年以上前に死亡し,)固定資産税・都市計画税が長年に渡り滞納されているので支払って欲しい」旨の通知が来て,慌てて相談に来られたんです。
詳しく事情を聞いてみると,①まず,被相続人Aが死亡して相続人であった子供B,C,Dが全員相続放棄をした。②これにより,相続権は次順位の被相続人の兄弟姉妹E,Fに移った。(Aの親が生きていれば,その親が次順位の相続人ですが,その親はすでに死亡。)③その兄弟姉妹E,Fはすでに死亡しており,そのうちEの子G(依頼者)がさらに相続権を取得していた、ということが判明しました。このような場合,Gが「自己がAの相続人であり,Aに負債があったことを知った日」は,市役所からの通知を受けた日なので,当該通知を受けた日から3ヶ月以内に相続放棄の申述をすればよいことになります。
ここで,相続放棄の申述に関する注意点をまとめておきます。
①遺産に手をつけないこと。遺産に手をつけた場合には,「相続することを承認した」とみなされ,相続放棄が受理されないので,要注意です。例えば,被相続人名義の預貯金を葬儀費用に使ってしまったなど。
②被相続人の死亡日から3ヶ月を超えている場合には,事例によっては認められない場合もあるので,特別な理由がない限り被相続人の死亡日から3ヶ月以内に相続放棄の申述をすること。
③もしも,3ヶ月以内に遺産の内容が判明しないため相続放棄の申述をするかどうか決められないときは,3ヶ月以内に相続放棄の申述期間伸長の申立てをすること。(または,場合によって,相続によって得るプラスの財産の限度においてのみ負債を承継する旨の申立て(「限定承認の申述」といいます。)をすること。)
さて,ここで注意点①に関する問題です。被相続人の生命保険金の支払いを受けた場合には,「相続することを承認した」とみなされるでしょうか?
答えは,NOです。一般に,生命保険金は,相続財産ではありませんので,承認したとはみなされません。なので、生命保険金を取得しても相続放棄をすることができます。(ただし,契約形態等により相続財産とみなされることもあるので,実際には専門家に相談した方が間違いありません。)ちなみに,生命保険金は一般に相続財産ではありませんが,相続税を計算するにあたっては相続財産とみなされます(みなし相続財産)。